ゲゲゲの鬼太郎

水木しげる:作

男なら・・・・ゲゲゲを読め!! いわんや女性をや!


 

昔も俺は、ゲゲゲの鬼太郎が好きだったらしい。

『らしい』と言うのは、

「続きものであるKC15〜17巻をちゃんと買っていなかった」

ということに起因する。

ここには、俺の大好きな『鬼太郎夜話』が載っている。

でも、16巻までしか買ってないんだよね。

なんでだろう?

17巻を買おうとしたときに、本屋の婆ちゃんが、

 

『ん〜?これ買うのォ??』

 

と、明らかに『お前何かってんだよ』というような発言をされたので、

 

『んじゃ、7巻下さい』

 

と、わけの解からない買い物をしてしまった。

それくらい小さい頃だったんだろう。

他に全然記憶ないし。

 

これが、鬼太郎を買わなくなった理由のような気がしてならない。

以後、途中までしか読めない『鬼太郎夜話』を何度も読み込むことになる。

買えばよかったんだけどねえ。

思えば罪作りな婆ちゃんだ。

未だにこの本屋はヒッソリと続いていて、婆ちゃんは、相変わらず婆ちゃんである。

でもあれ以来、近くでも買い物してないんだけど・・・・・(トラウマ!!?)

 

あれから10年ちょい。

本棚に埋もれて発見された単行本を手に取り、

鬼太郎夜話の続きが読みたくなった俺。

すぐさま『愛蔵版・ゲゲゲの鬼太郎』を取り寄せ、読んでみる。

 

載ってました、鬼太郎夜話がちゃ〜〜んと。

 

面白い!実に面白い!

これこそが鬼太郎の本当の姿だ!

 

とか、勝手に思ってみる。

 

鬼太郎夜話の他にも、ヤンマガ、マガジン、サンデーに載った鬼太郎が、だいたい網羅されている。

愛蔵版、意外と凄い出来かもしれません。

 

 

蛸踊りのショーを見て、『この胸の高鳴りは何年ぶりか』とまで興奮する砂かけ。

すぐ敵を天ぷらにして食べるねずみ&鬼太郎。

それを食べられなかったとメチャクチャ怒る子泣き爺。

食われる方としては、成仏できるのかどうかが問題だ。

 

そんな愛すべき『妖怪』が、のほほんと描かれているこの漫画。

今回は『鬼太郎夜話』を中心に、ちょこっとだけ紹介をしたいと思う。

 

 

 

 

鬼太郎夜話(中央公論社・愛蔵版第2巻に収録)

 

この話は、色々な要素がゴチャゴチャと出てきては、それが展開する物語である。

 

人に寄生し、ついには全身を乗っ取ってしまうという『吸血木』。

鬼太郎の「ちゃんちゃんこ」を狙う『ニセ鬼太郎』。

ニセ鬼太郎と組んで、TVデビューしようと狙うねずみ男。

鬼太郎が思いを寄せる『寝子(ねこ)』さん。

借金取り。

紳士の狼男。

そして、主人公の扱いをされてない『鬼太郎』。

 

そういった面々が紡ぎ出す、奇妙で恐ろしげなストーリー。

一本道な話ではなく、ショートショートがつながっている、そんな感じの話である。

そういった意味で、

この話は鬼太郎を中心に据えてストーリーをやんわりと語ってみたい。

 

 

鬼太郎。

幽霊族唯一の生き残り。

目玉になってる父親は鬼太郎の目玉ではなく、

彼の父親が死んだ後に目玉だけが動き出して、生まれてきたものである。

そういった経緯を知ると、意外と親父の方が強そうに感じるのは俺だけだろうか。

食われても死なないし。親父。

 

さて主人公・鬼太郎は、この漫画ではかなり人間臭く描かれている。

長屋住まいの居候。

もちろん仕事などしてないので、いっつも貧乏。

たまに吸うタバコ『ピース』も買えないくらいである。

まったり鬼太郎。

そんな鬼太郎も、長屋の1階に住む寝子さんに恋して、

小学校に一緒に通ってみたり、

寝子の歌手デビューを手伝ってみたり、

 

そして失恋してみたり・・・・・・。

 

失恋した鬼太郎は、ハナミズ出すほど泣きまくります。

 

『そりゃあお前みたいな顔では無理だ。

 寝子さんのような綺麗な子は、つげ義春くらいの男前でなくちゃ。』

と、目玉の親父。

けっこうドライやね。

 

 

失恋のショック。

しかし、ある日鬼太郎は頭を打って、その影響で気分がガラリと変わってしまう。

 

『人生は1日でも多く楽しまなきゃ』

 

と言いはじめる鬼太郎。

変わるにしちゃあ、あんまりにも変わりすぎだ。

 

タバコを楽しみ、

歌を楽しみ、

食事を楽しむ鬼太郎。

 

そうやってグダグダやってる所で『ナンダカ族』という若者に出会う。

このナンダカ族は、『何やってんのかわからん』という、

刹那的な生き方を象徴するようなキャラ。

鬼太郎は、そんなヤツと意気統合。

 

『金と暇のないヤツは、ナンダカ族になる資格はないぜ。』

 

そう言う若者は、ビートルズの影響からか、長髪で丸サングラスである。

 

『だが、金のかからぬ方法もあるぜ。』

そう言って若者は、鬼太郎に耳打ちする。

場所は駅のホームである。

『見てみな・・・・・みなが尻を並べて電車を待っているだろ。

 ぼかあこうして眺めていると・・・・

 一人くらい突き落としてみたい衝動にかられる。』

 

 

『なるほど!!』

『じゃあさっそくスリルの快感を味わってみるかな!』

 

 

鬼太郎は、何故かやる気満々で人を突き落とそうとします。

オイオイ!それはまずいだろ!

君は人に感化されすぎだ。

そういう読者を無視して、まっすぐ女の尻に向かって行く ちゃんちゃんこ少年。

 

こんな風に、『鬼太郎夜話』で描かれる鬼太郎は、

力があるのにドン臭く、コロリと人に騙される。

世間知らずなキャラクターとして描かれている。

 

 

 

そんな世間の冷たさが身に染みてか、鬼太郎は借金取りのバイトを始める。

それも妖怪相手の借金取りだ。

『ぼかあ胃が丈夫だから、コッペパン一個くらいではがまんできないよ。』

長屋の家賃も値上がりして、食事を切り詰めているのだ。

貧乏もこのバイトに拍車を掛けたのかもしれない。

 

妖怪に貸したというお金は、利子に利子が積もって二人で2000万もあると言う。

そして、鬼太郎の給料は、取りたてた中から一割である。

 

そういう条件を聞いた鬼太郎は、さっそく皮算用。

 

   『一千万の1割といえば100万円。』

   『上手く2つ取りたてれば二百万円か。』

   『ぼろい!』

   『かならず探し当てるぞ!』

 

ブラボーだぜ!

金に目がくらみまくりな鬼太郎!

このコマ大好きだ。

 

 

んで、このあと鬼太郎は借金を取りたてに行くんだけど、

その取りたてる相手が悪い。

 

その名も水神様。

かなりの強者のハズです。

でも、そこは『夜話』版の鬼太郎。

水神様に痺れ薬を盛り、

金だけ持って行こうとします。

 

たまんねえ!鬼太郎最高!

 

 水神様が袋詰めです。

 

 

けど、結局失敗して逆に祟りに会い、

町ごと水没したりと、波乱万丈。

鬼太郎バンザイ。

 

 

 

 

 

そうそう、鬼太郎と言えば、

そのパートナーともいうべきねずみ男についても触れねばなるまい。

 

 

 

 

ねずみ男。

元々の設定は、

人間と妖怪半々の血が混ざっており、300年しか生きていないヒヨッコ。

怪奇なことが大好きで、そういったことに首を突っ込んではひと騒動起こす。

そんなキャラクターである。

 

この『鬼太郎夜話』でもそれは顕在で、

彼は世にも恐ろしい『吸血木の芽』の開発に成功する。

これは一旦人に寄生すると、毎日輸血が必要になるほどの血を吸って成長し、

仕舞には人間事態が木に乗っ取られてしまうという恐ろしい新妖怪だ。

ねずみは、これをただ電車で出会った男の腕に寄生させる。

寄生させられた方はたまったもんではない。

『困ってる時に助けないのが僕の趣味だ』

いい性格である。

 

また、他にも『ニセ鬼太郎』を使って鬼太郎のちゃんちゃんこを盗ませ、

「地獄に行ける特殊なもの」としてTVデビューを企てたりもする。

現世での成功を望むこういう行動は、人間の血が混ざってるせいなのかもしれない。

ほかには、目玉の親父を人質(?)にとって、鬼太郎を召使にしてみたりと、

とにかく、鬼太郎を利用できるだけ利用する。

 

しかしそんなねずみも、「ガマ令嬢」に出会ってから少しおかしくなる。

ある女性が彼の住居のとなりに越して来るのだが、

これが、口にチャックがついたガマ口女。

ネズミはもうこれにメロメロ。

ああ、麗しのガマ令嬢

どうして口にチャックが付いてるこんなのにメロメロになるのかわかんないけど、

兎に角そのチャックを閉める音にメロメロ。

 

『あのチャックの閉まる音を聞いたか!?

 わしは生まれて初めて女性に魅力を感じた。』

 

 

何故ッ!!?

 

もしかして、チャック・フェチなのか?(そんなのがあるのかどうか知らんが・・・・・・)

 

 

 ニセ鬼太郎・談。

まあ、そうだよねえ・・・・・・・・・・・・

 

まあ、十人十色だし、ねずみだし。納得しとこう。

 

 

んで、恋に狂ったねずみ男は名台詞を連発。

 

『我が胸は熱い恋の火に燃えているのだ!

 あのチャックの音を聞いてから我がハートは高く波打っているのだ!

 おお神様!

 神ちゃま!』

 

おとなりさんからもらった『おから』すら、食べずに大事にしまっておくくらいメロメロ。

ちょっとコミカルで面白い。

 

 

こんな2人が中心に展開する鬼太郎夜話。

この話は雑誌『ガロ』に2年かけて掲載されたものらしい。

 

「このテイストは確かにガロっぽい」

 

などと、素人のくせに頷いてみたり。

墓場キタローや、その後の鬼太郎を見てないヒヨッコ水木ファンの俺には、これが今のとこ精一杯かな。

 

 

 

 

 

おまけ-鬼太郎名場面集-

愛蔵版を見ていて、何となく気に入った部分をほんの少し紹介しようかと。

 

 

-@ 鬼太郎とUFO-

 

昭和53年、週間実話でも描かれた『ゲゲゲの鬼太郎』。

この頃はUFOブームだったのかは知らないが、

「竹やぶの小人」、「円盤実験」、「宇宙人落下」と、3本連続でUFOもの(というか、宇宙人もの)の話が掲載されている。

厳密に言うと、UFOや宇宙人は妖怪じゃあないのかもしれないけど、

人々の妄想やら噂やらから出てきたってところは同じなので、その範疇に入るのかも。

なかでも面白いのが『竹やぶの小人』。

この話では鬼太郎がUFOを追っておおはしゃぎ。

 

 

「鬼太郎、おめえこんなところでなにしてんだ?」

「エンバンだ」

「エンバン?何も見えやしない。」

「バカ!おめえには見えなくても俺には見えるんだ!」

 

と、何気なくヤバい発言を連発。

さらにはUFOが着陸したほこらへ行き、

そこで勝手に宇宙人の所持品を漁るなど、もはや盗っ人状態。

 

 

 

ねずみ 『あー!スリッパまである!』

鬼太郎 『バカ!宇宙人に気付かれたらどうするんだ!』

『あっ!宇宙人のウンチがある』

 

はしゃぎすぎだぜ!鬼太郎!

 

 

 

 

-A 砂かけの超必殺技-

 

鬼太郎の母親がわりとして、途中から活躍する砂かけ婆。

アニメだと、わりと分別のあるキャラとして描かれるが、

漫画版ではすぐ切れる危ない婆さんになってるので、とても新鮮。

子泣きの爺さんが優柔不断だってだけで

「ビビビビビ!」とビンタかますくらいアグレッシブです。

 

戦うときも、不意打ち、武器使用なんでもありのバーリートゥード。

ちなみに、コレは不意打ち&武器使用という超実戦派。

 

でも、そんな砂かけの使う妖術は、砂をかけるだけって思ってる人も多いのではないでしょうか。

その効果は、良くても目潰しやパワーを弱めるくらいです。

 

が、愛蔵版を読み進めるうちに、彼女がもの凄い必殺技を持ってることが解かりました。

その名も『砂太鼓』!

鬼太郎一家が今にもやられそうだ、という時にも関わらず

『砂太鼓は砂かけ家の秘宝じゃ、みだりに使えん!』

と、出し渋るほどの技。

 

しかし鬼太郎達の命には変えられない。

砂かけは懐から壷のようなものを取りだし、ポンと太鼓のように叩くと、

そこから砂が機関銃のように飛び出した!

 

 

壷を抱え、砂かけが叫ぶ!

 

 

     世界一の目潰しじゃー!

 

 

 

ゲェーーーー!?

 

 

 

 

 

 

-B エッチな鬼太郎-

妖怪いやみは人の楽しみを気体として吸い込み、それを溜めておく妖怪である。

その気体を人が吸い込むと、ものすごく楽しい気分になるが、そのかわり色ボケになる。

 

この気体を吸ったねずみ男がまったくの色ボケになって

『花ちゃん、いいモモしてるねえ』

なんて危ないことを言いながら、

おままごとをしてる女の子を誘拐。

 

 

ついでに、『正義の味方 鬼太郎だー!』

と、自己紹介つきで出て来た鬼太郎も、例の気体を吸って色ボケ化してしまう。

 

『ぼく、花子さんさえ居れば、お父さんなんかいりませんよ』

 

すっかり気の抜けた言葉を聞いて、嘆く目玉親父。

そりゃあ、嘆くよな。

 

 

ついでに、一人の女の子をめぐり、争いを繰り広げるねずみと鬼太郎。

 

『鬼太郎!俺の恋人を横取りしようってのか!

冗談じゃねえよ!花子さんは僕の恋人だ!』

 

 

ああ、おもしれえ。

 

ちなみに、妖怪を倒した後も事件自体はあったことなので、

誘拐犯の使命手配は解かれないみたいだ。

 哀れなねずみ・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

鬼太郎は、今も昔も『おもしろい』と思ってたけど、

こうして改めて見てみても、やっぱオモシロイ。

ゲゲゲの鬼太郎は、それ自体メジャーな漫画であり、

いわゆる『児童漫画』にも含まれかねないほどのものである。

それなのに、この漫画には他の『児童漫画』には見られない、シニカルな笑いがちりばめられている。

その度合いは少年雑誌よりも、ガロや週間実話といった雑誌の方が強いようである。

今の自分がそういった部分を面白いと思うのは、大人になったからなのかねえ。

 

んでは、最後にそういった1ページを紹介して、今回の特集を終りにしたいと思う。

 

 

  

 

 

水木しげるの描く人物って、ホントに魅力的なんだよなあ。

他の作品も、是非当たりたいと思ってます。

 


モドル